ミジンコとメダカの狭間で揺れる里山です。(優柔不断なんで、片方だけ選ぶなんて……。)
僅かに採れた貴重な卵から孵化した極ブラックのチビたち。第一号は先日常世に旅立ちましたが、次に生まれて来た兄弟たちは皆元気!
かと思いきや……。
また底に沈んだままの個体を発見しました。
おいおいまたかよ!と思いましたが、じっくり見てみると違いました。どうやら卵膜から上手く抜け出せなかったようで、頭に膜が残ったままになっていました。
メダカあるあるです。先日の記事に書き忘れていました。
ともあれ、膜を取り除き様子を観察してみることとしました。
未成熟ではない
底に沈んだチビを発見した時、「また未成熟なの?」とちょっと残念な気分になりました。ですが、じっと見てみるとどうも違います。
未成熟個体の場合、体の割にヨークサックが大きく見えるので何となくわかるのですが、この個体はシュッとしたスリムな体型をしていたのです。
――じゃあ何で?
背骨が曲がっていたり、先天的な奇形でもあるのでしょうか?
じーっと観察してみたところ、おかしな部分に気付きました。頭の周りに何か半透明の膜のようなものが見えるのです。
「あ。成程な。」
毎年こういった個体が必ず1匹2匹は出て来るもの。泳げずに沈んでいたチビ助は、自分だけの力で卵膜を脱ぎ切れなかったのです。
メダカの孵化は尾から
メダカは孵化前くらいになると、口の中で特殊な酵素を作り出します。卵膜を溶かすための酵素です。この酵素により出来た穴から尾を出し、最後につるんっと頭が出るようになっています。
ちなみに卵と水草などを繋げる付着糸は、この酵素により溶けることはありません。
付着糸の役割
過去記事でも書きましたが、この付着糸が卵膜を脱ぐ時のポイントなのではないかと疑っています。(学術的なものを見つけられなかったので、あくまで仮説です。)
卵膜が何処にも固定されていない状態では、いくら暴れても膜がくっ付いて来てしまいます。ですが付着糸が何処かに絡まっていれば、チビの動きに合わせて卵膜が付いて来ることはありません。
どちらが卵膜を脱ぎ易いでしょうか?
本来であれば、卵は何処かに産み付けられているもの。
付着糸を取っての管理は、ヒトが勝手にやっていることです。何処かに産み付けられた卵と、付着糸を切って個別管理をされている卵を比べてみたら差が出るかも知れませんね。
卵膜を除去する
今回の場合、付着糸と思しきものに藻が絡まり、何となく見えている状態でした。この付着糸をピンセットで摘み、卵膜を除去することにしました。
↑アップにした写真。
↓更に線を加えてわかり易くしたもの。付着毛にゴミが絡まり、何となく輪郭がわかります。
付着糸が無い場合、卵膜そのものを摘むことになります。一歩間違えばチビの頭はペシャンコ!糸があって良かったと思った瞬間です。
ピンセットで摘み、軽く引っ張ると卵膜は簡単に取れました。
が、しかし――
チビは力無く底に沈み……。生死の確認のため、やや時間を置くこととしました。
泳ぎ出した稚魚
結論から言えば、チビは生きていました。しかし泳ぎ方が普通ではありませんでした。
卵膜を長く被っていたことの後遺症なのか、或いは先天的なものなのか?どちらかはわかりませんが、真っ直ぐ(水平)に泳ぐことも、浮いた状態を保持することも出来ません。
垂直方向に泳ぎ、動きを止めるとそのまま沈んでしまうのです。
近くで見てみると、背骨は「へ」の字に曲がっていました。泳ぎが縦方向になってしまうのは、この背骨のせいだと思われます。
顔を近付けて見ていると、向こうもまたこちらを見ていることがわかります。
こういった場面に里山は弱いです。何も出来なくてゴメンという気持ちで一杯になるから。
おわりに
メダカたちは簡単にぽこぽこっと増えているように見えますが、卵の1つ1つに焦点を当ててみると、それ相応のドラマがあることに気付きます。
決して簡単に生まれているわけではないのです。
生まれて来ることが軌跡のように感じられる瞬間もあることでしょう。
さて、このへの字クンはどうなってしまうのでしょうか?
ヨークサックが命綱です。無くなったら最後、生きるためのエネルギーは外部から取り入れるしかありません。上手く泳げない体では、さぞかし困難な作業でしょう。
未成熟同様、コレに関してもあんまり良い結果を見たことがないなぁ……。