お正月も通常営業、里山です。
読者さんから頂戴したコメントの中に、「HbA1c」という単語を発見しました。久々過ぎて忘れてましたが、これ、「ヘモグロビンA1c」のことです。(=糖化ヘモグロビン)
血糖値のように検査直前の食事を抜いただけでは数値が下がらないため、糖尿病の判定に用いられます。
糖尿病はさておき、ヘモグロビンです。
ヘモグロビンはヒトを含む脊椎動物の赤血球内に見られる細胞です。ヘムという赤色素を持つグロビン(球状タンパク質)ということで、ヘモグロビンと言います。
ミジンコもヒトと同じようにヘモグロビンを持っています。
今日はミジンコの体色とヘモグロビンの話です。
ヘモグロビンとミジンコの体色
血液によって運搬される酸素の量は、動脈と静脈血の酸素含有量の差異から知ることが出来ます。
しかし、それはヒトのようなある程度の大きさのある生物の話。ミジンコのような小さな生物では、この方法で酸素含有量を知ることは出来ません。
――では、どうするのか?
ミジンコに関しては、その体色が1つの指標となり、酸素の飽和度を知ることが出来ます。
体が透けているという魅力
ミジンコの体は透けており、内臓の動きを直に観察することが可能です。心臓の拍動や腸の動きなども、解剖する必要なく、ままの状態で観察が出来ます。(肉眼では限界がありますが)
ヘモグロビンの濃度も、そのまま体色となって現れます。
冒頭の説明を覚えていますか?ヘモグロビンとは、ヘムという赤色素とグロビンの結合したものでしたよね。
つまりヘモグロビン濃度の上がったミジンコは、赤色に見えるということです。ヘモグロビンの吸収スペクトルから、酸素の飽和状態を推定することが可能です。
色の変化と酸素濃度
通常、ミジンコは白っぽいような体色をしています。
観察しながら「よく似ているな~」と思っているのが麦です。
写真は押し麦ですが、これを丸っこくしたらミジンコにそっくりです。真ん中の筋は腸ですね。
この白っぽい個体が酸素濃度の低い状況下に置かれると、ヘモグロビンを合成し赤くなります。
取材でのひとコマ
NHKさんが取材に来ていた時のこと。顕微鏡カメラでミジンコを拡大して見せてくれると言うので、被写体のミジンコを提供しました。
ピントを合わせたり画像の調整をしたり、作業を続けること数分。
「あれ?急に赤くなりだしたぞ?」
スタッフの一人が言いました。はっとして気付いたのがディレクターさん。「酸欠だ!とりあえず戻そう」と、プレパラートに載っていたミジンコは水の中へ。
ミジンコの体色変化が起こった瞬間でした。
ヘモグロビンの役割
ヘモグロビンは肺から全身へ酸素を運搬する役割を担っています。血液中に存在するヘモグロビンは、肺で酸素と結び付き、抹消で酸素を放出します。
①肺で酸素と結び付く(オキシヘモグロビンになる)
②動脈血として肺から出て全身に酸素を運搬
③酸素を放出し、静脈血として肺に戻る
生物にもよりますが、ヒトの場合①~③の繰り返しです。酸素と結合し、運搬するという働きは変わりません。
効率よく酸素を使う
ミジンコは体内にヘモグロビンを増やすことで、少ない酸素を効率良く取り込んでいます。
低酸素下で白い個体と赤い個体を泳がせた実験では……
・白い個体は約10メートル泳いだ時点で死んでしまった
・赤い個体は100メートル以上の測定不能な距離を、活発に(いつまでも)泳ぐことが出来た
という結果が得られたそうです。
酸素よりもヘモグロビンと結び付き易い一酸化炭素を使った実験では、赤い個体でも約10メートル程しか泳げなかったという結果でした。
ヘモグロビンの凄さがよくわかりますね。
複数有る?ヘモグロビンの種類
ミジンコのヘモグロビンには、幾つかの種類があるようです。それにより、酸素との結合力に差が出るのだとか。
興味深いですね。
参考記事 → ミジンコのヘモグロビンによる低酸素適応(PDF)
おわりに
ミジンコの記事を書くために生理学の復習をするとは思いませんでした。
メダカもそうなのですが、自身(ヒト)の体を知りたければ、身近な生物に興味を持つのが一番かも知れません。病気にでもならない限り、ヒトは好き好んで人体について学ぼうとしませんからね。
調べると、意外な共通点に気付いたりと、なかなか楽しいですよ。
それにしてもミジンコって凄いですね。
一般の人には見向きもされないけど、研究室ではかなり活躍しています。